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そこで、アリスは、両足に力を入れて、いきなり、本棚の影から飛び出した。そうして上海人形を眼前に構えながら、大股に魔理沙の前へ歩みよった。魔理沙が驚いたのは云うまでもない。
魔理沙は、一目アリスを見ると、まるで炸裂弾幕が弾けたかのように、飛び上がった。
「おのれ、どこへ行く。」
アリスは、魔理沙が書物につまずきながら、慌てふためいて逃げようとする行手を塞いで、こう罵った。魔理沙は、それでもアリスをつきのけて行こうとする。アリスはまた、それを行かすまいとして、押しもどす。二人は書物の中で、しばらく、無言のまま、つかみ合った。しかし勝敗は、はじめからわかっている。アリスはとうとう、魔理沙の腕をつかんで、無理にそこへ捩じ倒した。丁度、夜雀の脚のような、華奢な細い腕である。
「何をしていた。云え。云わぬと、これだぞよ。」
アリスは、魔理沙をつき放すと、いきなり、上海人形をけしかけて、赤い十字架のような弾幕をその眼の前へつきつけた。けれども、魔理沙は黙っている。両手をわなわなふるわせて、肩で息を切りながら、眼を、眼球が瞼の外へ出そうになるほど、見開いて、唖のように執拗く黙っている。これを見ると、アリスは始めて明白にこの魔理沙の敗北が、全然、自分の意志に支配されていると云う事を意識した。そうしてこの意識は、今までけわしく燃えていた憎悪の心を、いつの間にか冷ましてしまった。
後に残ったのは、ただ、ある人形を作っていて、それが無事に完成した時の、安らかな得意と満足とがあるばかりである。
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