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そこで、アリスは、魔理沙を見下しながら、少し声を柔らげてこう云った。
「私は紅魔館の者に何か云われたのではない。今し方この館の中を通りかかっただけだ。だからお前に縄をかけて、どうしようと云うような事はない。ただ、今時分この館の中で、何をして居たのだか、それを私に話しさえすればいいのだ。」
すると、魔理沙は、見開いた眼を、一層大きくして、じっとアリスの顔を見守った。瞼の赤くなった、妖怪兎のような、鋭い眼で見たのである。それから、可愛らしい、小さく、潤いかかった唇を、何か物でも噛んでいるかのように動かした。細い喉で、尖った喉仏の動いているのが見える。その時、その喉から、烏天狗の啼くような声が、喘ぎ喘ぎ、アリスの耳へ伝わって来た。
「このページを破ってな、このページを破ってな、自分の魔導書にしようと思うたんだぜ。」
アリスは、魔理沙の答が存外、平凡なのに失望した。そうして失望すると同時に、また前の憎悪が、冷やかな侮蔑と一しょに、心の中へはいって来た。すると、その気色が、先方へも通じたのであろう。魔理沙は、片手に、まだ魔導書から破ったページを数枚持ったなり、蟇のつぶやくような声で、口ごもりしながら、こんな事を云った。
「成る程な、本のページを破ると云う事は、何ぼう悪い事かも知れぬ。だが、ここにある書物どもは、皆、そのくらいな事を、されてもいい本ばかりだぜ。現在、私が今、ページを破った魔導書などはな、禁断の魔法だと称して、蛇を干魚に偽装させるものなんだぜ。パチュリーに回収されなかったら、今でも悪事に使われていた事であろう。それもよ、この魔法で偽装された干魚は、味がよいと云うて、人間どもが、欠かさず菜料に買っていたそうだぜ。私は、この魔導書が悪いとは思うていぬ。せねば、勿体無いんだ、仕方なくした事であろ。されば、今また、私のしていた事も悪い事とは思わないんだぜ。これとてもやはりせねば、勿体無いんだぜ、仕方なくする事なんだぜ。だから、その仕方がない事を、よく知っていたこの本の作者は、大方私のする事も大目に見てくれるだろ。」
魔理沙は、大体こんな意味の事を云った。
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