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正宗と店以外で会うのは今日が三回目だ。
夜働いている正宗と大学生の忍では、昼間会うにはどうにも時間が合わず顔を会わせるのはもっぱらバーが多い。
それでもたまの休日に正宗はひと並の恋人らしいことがしたいらしく、忍を家や街に呼び出したりする。
それが、忍にとっては少し気恥ずかしくもある。
これまでの男は、そういった所謂健全な付き合いというものしてこなかった。もちろん、正宗との付き合いがプラトニックなものだけではないが、こうして陽の下で買い物をするだとか待ち合わせをするだとかいうことが忍にとってはほとんど初めてといっても過言ではない。
うっかりそれを漏らしてしまったせいで、正宗が異様に外に連れ出したがるというのも忍にとっては意外といえば意外でもあった。
足の長いスツールに腰掛け、木目調のカウンターに頬杖をつきながら往来を眺めていると、隣にひとの気配と爽やかな香水の匂いがして首を巡らした。
「お待たせー。カフェラテとカフェオレで迷っちゃった」
目尻を下げて笑う正宗は、二十四だというのにそれだけで少し幼く見える。子供みたいにくるくると変わる表情と派手な外見というギャップがひと目を惹のだろう、忍と付き合う前は男も女も取っ替え引っ替えしていたという話は聞いていたし、ふとした瞬間に見せるやさしさや意外と頼りになる兄貴肌気質が今までの浮名を裏付けているかのようだった。
そして、その手が差し延べられる対象は忍も例外ではなく、休みたいと言ったのは正宗なのに忍のドリンクも手に持ってくる辺りが浮名の所以だろう。
「忍ちゃん、キャラメルカフェラテとカフェオレ、どっちがいい?」
透明なプラカップをふたつ差し出され、忍の瞳が左右に揺れた。どちらもやさしい茶色をしていて、キャラメルの甘い香りに鼻孔が心地よい。
「ちゃん付けしないでください。……キャラメルのほう」
四つの歳の差は大きいのか小さいのか、定かではないが、正宗は忍をからかうように子供じみた敬称を付けて呼ぶことが多い。忍にしてみれば、それは子供扱いされているようで毎回やめるようにと言うのだが、その度に空返事をするばかりで次の瞬間には再び呼び名は戻っているのだ。
渡されたキャラメルカフェラテに口を付けると、正宗が隣のスツールに座りカフェオレに口を付ける。
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