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このカフェのドリンクが、忍は好きだった。他にもカフェはいくつもあるが、このチェーン店のドリンクの甘さがちょうど舌に合う。 相変わらず店内にはゆったりとした時間が流れていて、今週大学であったことやバーであったことなどを話していれば、時間はあっという間に過ぎてドリンクも底をついた。 「そういえば正宗さん、今日は何か欲しいものがあったんじゃないんですか?」 ふと、今日わざわざ早い時間に待ち合わせした理由を思い出して問いかけた。 一昨日バーに行ったとき、「土日仕事が休みだから買い物に付き合ってほしい」と誘いをかけてきたのは正宗のほうだった。 日曜日はともかく、客の多い土曜日にまで休みを取れたことに驚きながらも、予定もないしと承諾すれば酷くうれしそうに笑っていた顔を思い出す。 「そうそう。――選んでくれる?」 やはり楽しそうに笑った正宗に、心の奥底が少しだけあたたかくなった気がして、ごまかすように残ったキャラメルカフェラテを飲み干してから何を? と問いかけた。 忍が正宗に連れていかれたのは、ファッションビルのワンフロアに威風堂々と店舗を構えている世界的にも有名な某ブランド店であった。 キーケースが欲しいという正宗は、ショーケースを覗きながら店内を見て回り、販売員の綺麗に着飾った女性に色々と説明を受けながら忍にどんなものが好みかと尋ねてくる。 「正宗さんが欲しいんでしょ。好きなの買えばいいじゃないですか」 「忍ちゃんの好みのものを使いたいのー」 「……ちゃん付けしないでください」 何故自分の好みを重要視するのかと胡乱気な視線を投げれば、正宗は笑いながら冗談じみたことを答えてきて、しかしそれが冗談ではないことをわかっている忍は目の前でサンプルのキーケースを広げて見せてくる店員の手前軽く受け流すことで拒否を示す。 だが、ひとをあしらうことに慣れている正宗にとっては、そんな忍の拒絶などいつものこととわかっており候補らしいふたつを手に取り忍の目の前に掲げた。 「どっちがいい?」 「――……」 ひとの話を聞いているのか、などとは訊かない。聞いていてしているのだからタチが悪いのだ。 ロゴのバックルが大きくデザインされたグレーのものと、小さなモノグラムが多く描かれた黒のキーケース。 .
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