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両親は、僕が10歳の時に交通事故で死んでいる。あの日のことは、あまりよく覚えていない。というよりかは、思い出せない。
いつもの光景。そう思えるようになった自分を少し寂しく思いながら、僕は青い自分の歯ブラシに手を伸ばそうとした……その時だった。目の前に『鬼』が現れたのは。
白い着物を着た、鬼。いや、鬼とは少し違う。鬼の面を被った人。そっちの方がしっくりくるかもしれない。
とにかく僕は驚いた。今までたくさんの霊を見てきて、驚いたことなんてなかったのに。何故かこの時
『今までとは違う』
と思ったのだ。何が違うのかは今でもわからない。
頭で逃げなければ、と思ったのに金縛りにあったかのように動けなかった。いや、実際金縛りにあっていたのかもしれない。
とにかく僕は数秒間『鬼』を見つめていた。それしか、できなかった。
僕がなんとかこの状況を抜け出す方法を考えていると、『鬼』が動いた。それはどこか優雅で、美しくもあった。
その時、『鬼』の着ていた着物の裾が歯ブラシを入れていたコップに触れた。すると、コップが地面に落ちた。ガシャン、というガラスの割れる音がする。その音がきっかけで僕は自由になった。鬼も、消えていた。
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