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「うわぁ・・・おいしい!」
「だろ?もうこれだけで店出せそうなくらいだよな~」
と、姫乃はパァッと顔を輝かせたかと思うと、すぐその花のような笑顔をしぼませてしまった。
「え・・・どうした?姫乃」
「・・・一馬先パイのお嫁さんになるには、やっぱりこれくらいお料理できないとダメなんですねぇ・・・」
『お嫁さん』というあまりにも自分にとってタイムリーな単語に、一馬はドキッとしてしまう。
しかし、姫乃が今一馬の置かれている状況を知っているわけがないので、その言葉に深い意味はないのだと己に言い聞かせる。
「お・・・お嫁さんってそんな、オーバーな・・・」
「姫乃じゃダメですか?」
どぎまぎしながらも軽く流そうとした言葉は、姫乃にいつにないハッキリとした口調で遮られ、一馬の胸の動悸が早まった。
姫乃の、コロコロとビー玉のように転がる大きな目は、まっすぐと一馬だけを捕らえている。
「姫乃が、一馬先パイのお嫁さんになれる確率は、何パーセントくらいですか?」
「・・・!」
姫乃の愛らしい顔が不安そうに歪んで、瞳はゆらゆらと揺れている。
いつも自分の前に現れる時は、幸せをそのまま顔に表したかのような笑顔をしていた姫乃のこんな表情を、一馬は初めて見た。
そして、こんな表情にさせているのが他ならぬ自分であることに、高鳴る胸が、強く痛んだ。
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