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「けっ・・・!! とうっ、ちって、やっぱ、今の内から気にした方がいいのかなぁ・・・なんて・・・」
「・・・・・はぁ?」
我ながら苦しすぎるッ!!
たった今自らが発した言葉に絶望へと突き落とされながら、一馬はなんとか顔に微笑みを保った。
顔が強張り、引きつっているのが自分でも分かる。
あまりにもバレバレのウソに、春香は怒りを通り越して呆れ返ってしまったようで、ポカンと口を開けたまま一馬の顔を見上げている。
しかし、それも束の間。
見る見る内に春香の顔が険しくなっていき、沸き上がる怒りを一馬にぶつけようと、口を開きかけた。
「ごまかすな・・・っ」
「あーっとぉっ!! 思い出したっ!! 俺、2時間目の数学の宿題やってないんだよなあッ!!」
わざとらしく腕時計を見ながら、大声を上げる。
いきなりのことだったが、春香は上体をのけ反らせただけで、大して驚いた様子を見せない。
「つーわけで、俺急ぐから!! じゃっ!!」
ビシッと片手を挙げて見せて、一馬は春香の前からそそくさと逃げ出した。
腕を顔の横まで振り、肩からかけたカバンが激しく揺れる程の、見事な全力疾走だった。
「・・・いっつも、逃げてばっかなんだから・・・」
走り去る一馬には目を向けず、春香は呟いた。
うつむいた顔を、ブラウンの長い髪がハラリと隠す。
誰にもその真意を知られまいとするかのように。
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