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「瑞紀って・・・苗字は?」
「井原だったかな。井原瑞紀」
「あれ以来連絡もしてねぇよ。顔もほとんど思い出せん」
「贅沢な男だねぇ。かーなーりー可愛いかったぜ、彼女」
ため息をつきながら、西はポケットから分厚い手帳を取り出した。
一馬はその中身を見たことはないが、西曰く、手帳には一馬を取り巻く女子に関する情報が詰まっているそうだ。
「じゃあ誰だ?知花?恭子?裕美?・・・あっ、裕美は五組の吉田とデキてるから、ナシ、か」
「・・・お前、刑事か探偵かにむいてんじゃね?」
ボールペンを器用に回しながら手帳に目を落とす西が、ドラマなどで見かける刑事や探偵といった類と重なり、まるで自分が尋問されているような気分に陥る一馬だった。
「ま、差し当たっての有望株は、六組のモデル系美人、日野春香かね」
手帳をパラパラパラとめくり、とあるページにトンッと指を置く。
「もうネタはあがってんだッ!! さっさと吐けぇいッ!!」
「悪ノリすんな」
バンッと机を叩き、身を乗り出してきた西に張り手をくらわせて、一馬はそっぽを向いた。
「図星か」
痛む鼻をさすりながら、西はからかうようにニヒヒと笑う。
「日野は大分切羽詰まってるらしいからな~。カワイソーに・・・」
西は一馬がムスッとした表情で自分を見ようとしないのをいいことに、その整った顔を無遠慮に眺め回した。
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