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「親父。俺、高校卒業したら東京行くわ」
「…………」
「心配か?」
少し間を開けて、親父はただ頷いた。
高校の進路を、就職と決めた時の思い出だ。
卒業式も終わって、いよいよ住み慣れた家を出る時、親父はただ一言
「…………身体に………………気をつけろ」
と、かなりの時間を掛けて言っただけだった。
俺の身体の心配なんて、ほとんど意味もないのに、ただその一言だけだった。
東京で働き始めて約半年。
やっと友達も出来てきて、よく遊ぶようになった俺は、金の配分が解らなくて、給料日まであと二週間近くあるのに、二千円しか持ってないということがあった。
さすがに、その時は親父に頼んだ。
「悪いけどさ、米送ってくれると、スゲー助かる」
「……………………わかった」
電話で頼んだ。
普通に配達でくるものだと思っていたが、親父はわざわざ東京まで来た。
米俵を持って。
ゆっくりしていけばいいものを、米を渡して、俺の顔を見るなら
「少し…………痩せた」
とだけ言って、すぐに帰っていった。
米俵と一緒に、封筒まで置いていった親父。
その封筒を開けると、中には一万円と
「小遣い」
とだけ書かれたメモ用紙が入っていた。
なんだか、見透かされているような気がして、申し訳なかったのを覚えてる。
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