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「親父……」
昔からいかつかった親父。痩せていた。
親父の寝ているベッドの横に座ると、小学生の時みたいに、頭をわさわさと撫でられた。
それからはずっと無言。ただ、面会時間が終わる十分前に
「孫…………見たかった」
という言葉が、チクりと胸に刺さった。
その時、彼女はいたんだ。次に実家に帰る時は、紹介するつもりだった。
「未来の嫁さんなら、見たかったら連れてくるぞ」
そう言うと、俺の記憶にはない一面。満面の笑み。その笑みを見せながら親父はただ一言
「見たい」
とだけ言ってくれた。
三日後に、彼女は来てくれると言ってくれた。
でも、親父は次の日の正午過ぎ。静かに。本当に静かに死んでしまった。
ただ、死ぬ少し前に。これもまた新しい一面。ただ涙を一粒流し
「…………すまん」
と、謝った親父の言葉だけが不可解だった。
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