親父

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親父が死んで、遺品整理をしていると、親父の病室のベッドの枕元から、手紙が出てきた。 そこにはただ一言。 『親らしいこと出来なくて、すまん』 とだけ書かれていた。 正直、実感が沸かなかった。いつも無口だったし、死んだ時も不思議と、寝てるんだな。みたいな感覚を覚えただけだったが、その手紙を見た時一気に涙が溢れた。 誉めてくれた。叱ってくれた。男手一つで俺を育ててくれた。 仕事が早く終わった時は、慣れない包丁捌きで晩飯を作ってくれた。 毎年誕生日には、俺が欲しい物を買ってくれた。 俺があまりグレずに育ったのも、全部親父がいてくれたからだと思う。 ただ、親がいてくれる。それだけでよかったのに、俺がそれを伝える前に、親父は死んでしまった。 俺に謝ったまま死んでしまった…… そう思うと、とてつもない罪悪感と、今さらながら、親父への感謝が溢れてくるだけだった。
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