注文の多いスキマ亭

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二人の若い大学生が、少女秘封倶楽部と名乗って、ぴかぴかする携帯電話を持って、ソクラテスという名の目つきの悪い猫を疋つれて、だいぶ山奥の、竹の葉のかさかさしたとこを、こんなことを云いながら、あるいておりました。 「ぜんたい、ここらの農村は怪しからんね。人も獣も一人も居やがらん。なんでも構わないから、タンタアーンと、取材してみたいもんだなあ。」 「昔の日本人みたいな村人なんぞに、二三言質問したら、ずいぶん痛快だろうねえ。くるくる頭をまわして、それからどたっと倒れるだろうねえ。」 それはだいぶ山奥でした。案内してきた大学の先輩も、ちょっとまごついて、どこかへ行ってしまったくらいの山奥でした。 それに、あんまり竹薮が物凄いので、その目つきの悪い猫が、ふらふらとめまいを起こして、しばらく吠って、それから泡を吐いて死んでしまいました。 「じつに私は、二万四千円の損害だ。」 と蓮子が、その猫の眼ぶたを、ちょっとかえしてみて言いました。 「じつに私は、二万八千円の損害だ。」 と、メリーが、くやしそうに、あたまをまげて言いました。 蓮子は、少し顔いろを悪くして、じっと、メリーの、顔つきを見ながら云いました。 「私は戻ろうとおもう。」 「さあ、私もちょうど怖くなったし腹は空いてきたし戻ろうとおもう。」 「そいじゃ、これで切りあげよう。なあに戻り、昨日の宿屋で、土産を千円も買って帰ればいい。」 「骨董品もでていたねえ。そうすれば結局おんなじこった。では帰ろうじゃないか。」 ところがどうも困ったことは、どっちへ行けば戻れるのか、いっこうに見当がつかなくなっていました。風がどうと吹いてきて、草はざわざわ、竹の葉はかさかさ、竹はごとんごとんと鳴りました。
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