夕暮れ時にて

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 とん、とすれ違い様に肩が触れた。  夕暮れ時とはいえ、人通りも程々で狭くもない歩道。お互い避けようと思えば、半歩ずつ左右に動けば良かったはずだった。事実、少女は避けた。しかし彼らは避けなかった。故意に避けなかった証拠に、肩が触れた直後からわざとらしい痛がり方をして転げ回った。  振り返った少女は溜息とともに地べたで転げ回る少年へと一瞥をくれる。大袈裟に転がりながらも、彼の口許には笑みが見える。少年の取り巻きが下卑た笑いを浮かべながら、少女を取り囲む。取り巻きの一人が少女の肩に手をかけた、その時だった。  制服のスカートが翻り、夕焼け空に人影が舞った。赤い空に黒い人影。さながらそれは一枚の影絵のようだった。その美しさに少年達の動きが止まった。  そして次の瞬間、少女を取り囲んだ少年達は息を飲んだ。自分達の仲間が、地面に投げ飛ばされたことに気がついたからだ。  動きを止めた彼らに見向きもせず、少女は再び歩き出した。その姿は神々しくさえ見える。  大きくなったらあのお姉ちゃんみたいになる。  母親に手を引かれ一部始終を見ていた幼女の心は、その名も知らない少女に釘付けになっていた。
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