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部屋中に充満するヒビテン溶液と70%エタノールの匂いに鼻をひくつかせ、彼女はディスポタイプのペーパーマスクとラテックスのグローブを付けた。右手には月明りで冷たい輝きを放つ薄い刃。
彼女はそれを手元のバットに横たわる、大振りなラットの剃毛した腹部にそっと添わせる。
柔らかな弾力を指先に感じながら刃先を滑らせると、そこに一筋の紅い筋が浮かび上がった。
彼女は刃の向きを変え滑らかなラットの腹部に紅く鮮やかな十字架を描くと、爪の先でその薄い表皮を捲りあげる。表皮の下に見える白い塊状の脂肪を削ぎ落し、赤い筋肉の層を剥き出しにすると、その薄い肉は規則正しく上下運動をしていた。
彼女はそれを愛おしむ様に指先でなぞると、手に持った刃を深々と赤い隆起に突き立てた。
刃を立てた瞬間、意識はないはずのラットの筋肉に緊張が走り、四肢はぴんっと強張る。まるで宙を駆けるように、ラットの四肢は空を掻いた。
彼女はその足先をグローブをしていない左手で弄ぶと、刃が突き立てられたままの腹部に親指を滑り込ませた。グローブ越しではない指に、生暖かく濡れた内臓が絡み付く。
弱々しく筋肉が収縮する刺激が、まるで女の胎内をまさぐっているかのように錯覚させた。
彼女の目は恍惚の色の浮かべ、マスクの奥で舌なめずりをする音が聞こえていた。
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