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夕刻、仕事帰りの秋人はマンションの入り口に最も逢いたくなかった相手を発見し、露骨に眉間にしわを寄せていた。
「兄貴!」
ちゃらちゃらとした、いかにも“夜”の印象を与えるファション。甘ったるい匂いに気取った笑みを浮かべたコイツは、むかつくことに同じ“顔”をしている、双子の弟だ。
「何の用だ?」
「あのさ、弟が遊びにきちゃダメなのか?」
「同じ顔のお前がうろつくと、妙な噂がたつだろ。」
「あったねー、二重人格者だとか?実は、影で遊んでるとか?」
「お前と俺が混じるのは、ごめんなんだ。」
「まぁ、まぁ。とにかく中で話そうぜ?お客から貰った、高いワインがあるからさ。」
「…駄目だ。」
「?…彼女とか?!」
「違う!ただの同居人だ!!」
「ウソ?!兄貴と一緒に暮らせる神経持った女が存在したのか。…逢わせてくれよ。」
しまった、と思ったときには遅かった。言い出したら引かないところは、自分と同じだ。結局、秋人はしぶしぶ一緒に帰宅する。
「ただいま、ハニー!」
馬鹿な弟が、またくだらないことを…!しかし、いつもひょっこり顔を出してくる美月の姿が無い。
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