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顔は同じなのに、小学校の頃から告白されるのはいつもアイツの方だった。『暗い方の藤宮。』そう呼ばれていた。それが、大学の時一度だけ夢を見たことがある。悪夢になるとは、思いもしないで…たった一度だけ、初めての恋愛だった。苦しい失恋の思い出は、秋人の心を完全に閉ざし冷たく凍りつかせていた。
「なんで美月(アイツ)は、俺を選んだんだ?」
わざと突き放しても、いつも笑って迎えてくれる。疲れて家に帰った時、あの笑顔に癒された。何もしてやってないというのに…。
見慣れたテーブルに、居心地のいいソファー。二人で眠った自慢のベット。しばらくの間だったが、忘れていた安らぎを与えてくれた場所。美月は、一人部屋に戻っていた。
「秋人…。」
そっと、彼がいつも座っているパソコンのデスクに手をついた。
答えを出したのに、この込み上げてくる切なさは、どうしようもなかった。ポタリ、涙がその手に落ちる。誰も居ない部屋で、美月は、一人泣いていた。一人きり、冷たく暗い部屋のなかで…。
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