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「シャワー、勝手に使っていいから、目を覚ませ。いいな?」
「うん?」
寝呆けたような返事だったが、コートを脱ぎ始めたのを見て、慌てて離れる。しばらくすると、浴室のほうから規則的な水音が聞こえてきた。秋人は、寝室へ引っ込んだ。一人暮しには、似合わないキングサイズのウォーターベット。ベッドサイドに置いたオーディオには、クラシックがつまっている。それにしても…今日の“自分”は、何をやっているのだろう?正体不明の酔っ払い女を家に連れ込んで、厄介ごとを避けるというより、呼び込んだんじゃないのか?正気に戻って騒がれでもしたら…いや、俺の姿が無ければ騒ぐ前に帰るだろう。この部屋に、他人を入れたのは本当に久しぶりだった。家族ですら、自分の時間を邪魔されるのが嫌で来ることを拒んでいる程だ。
「俺も、少し飲みすぎたか。」
別に、“落とし物”にそれほどの興味もない。酔いが覚めたら、すぐに帰ってもらえばいいだけだ。秋人は、ベットに横たわると目を閉じた。彼女が浴室を出るまで、少し休みたかっただけだったのだが、いつのまにか睡魔に取り込まれていった。
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