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「先生、課題の締切は来週末ですよね?」
「あ、ああ。金曜の午後三時、時間厳守だ。」
午後の講義の終わった教室では、女子生徒が集まってこれからの予定を打合せている。全生徒の七割ほどが男子で占められている中、秋人の受け持つゼミは、女子比率が半数と高かった。必修の講義でも、毎回出席をとるわけでも無いのに彼女達の出席率が良かったのは、『若いイケメン大学助教授』が愛想が悪くても人気だったからなのだが、本人に自覚はない。今日は、何をしていても、どこかうわの空だった。家のあいつは、もう帰っただろうか?そういえば、名前すら聞かなかった。
「まぁ、もう二度と逢うわけじゃないしな。」
そうは言ったものの…朝の強烈なイメージと柔らかな手の感触は、消えずに未だ残っている。見た目で言えば、自分の好みのタイプだった。
「下手に関わると、ろくなことがないんだ。特に、女は面倒だからな。」
自分にそう言い聞かせる。別に、今更自分の生活の中に他人を入れる必要もない。事実、秋人自身今の自分の生活に、なんの不満も抱いていなかった。独身生活は、いたって快適で順調だ。
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