序章『出会いと幽霊は突然に』

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 さて、前置きもそこそこに、そろそろこの辺りで彼、空浄良久が何故取り憑かれたのかをお聞かせしよう。  全ての事の始まりはそう、盆休みと言うわけで実家である大阪に帰ったのが間違いだった。  否、その段階では“まだ”何もなかった。  空浄良久は取り立てて、せいぜい大学の名前以外は特筆すべき要素を何も持たない青年だった。  仮にこの世界がごっそりRPGにされたとしても、せいぜいアイテムの使い方を延々と教えるだけの一般市民A……の筈だった。  本当の始まりは、空浄は一切信じていなかかったが、それでも一応江戸時代から続く風習と言うわけで墓参りに行った事だろう。  あくまでも仮定形なのは、空浄自身に霊的能力が皆無な為、正確に何時と言われるとわからない。  ただ、その頃から『彼女』が現れた事と、時期的にも場所的にもそれっぽいからだ。  顔も知らないご先祖へ形式的な墓参りをした後、しばらく実家に滞在し、盆の終わりと同時にバイトも再開されるとあって東京に戻ったその日の夜……  空浄は幽霊に取り憑かれていた。  これが正しい表現かどうかなんて知らない。  ただ、この世界の常識を逸脱しか“何か”にストーカーと言うか同居されている。と言うのは国語辞典的に幽霊に取り憑かれている、が正しいと思う。  最初は自分が狂ったと思った。  変人揃いのエリート過ぎる大学に通って早4ヶ月。  ついに自分もかと。  だが、空浄もバカではない。さすがに1週間も続けば考え直す。  あまつさえ“特殊能力”なる理論的にどう考えても説明不可能な事象の体現者となってしまったのだから。  だから……現実を取り戻す為に。  空浄は、彼女を殺してもらう依頼をしに行ったのだ。    
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