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『ゆがみ』
「あー、彼氏欲しいなー」
「えー?彼女のほうがいいよー」
久々の連休、俺と嵐くんは部活通いの生徒しかいない学校に忍び込んだ。
屋上の、錆びた有刺鉄線のフェンスをすり抜ける11月の風は、夏を卒業したての肌には少し痛かった。
太陽に熱されたコンクリートに仰向けで大の字に寝転びながら、俺と嵐くんは思ったことだけを口にする。
「なんで彼氏のほうがいいのー?」
「弱い者には優しいから。エッチはどうでもいいんだよなぁ。どっちもできますから」
「ふぅん。どっちもって、男役もやるんだ?」
「片役だけのセックスなんてつまんないからね。両方できて初めてゲイじゃないかな」
「…やーん。複雑」
「そォ。複雑なの。複雑すぎて、もォ一週間もセックスレスだぜ?ありえなーい」
ちらりと嵐くんの表情を伺うと、ぷくっと膨れっ面。
本当、どこにでもいる普通の男の子なのに、男好きって不可思議。
身長だって170㎝もあったりするしね。
俺よりは小さいですが。
「なぁ、お前は歪んでると思う?」
「何が?」
「俺の恋愛対象と性関係」
「…俺は嵐くんのことを、初めからそう認識していたから、歪んでるとは思わない」
「そうなん?」
「まぁ…別に偏見はしないけど、嵐くんもいろいろ辛そうだしね?んー、でもやっぱ、将来的に男好きを止めて、ちゃんと結婚した幸せな姿を見たいな」
「お前はどこぞの親父か」
「お前の親父じゃ」
「ふぅん。なーんだ。お前、そんなフウに思ってんの」
「絶望?歓喜?」
「否、普通だね。でも、冷たいこと言わないから、お前好きだよ」
「俺も嵐くんていじりやすいから好きだよ」
「…へーぇ」
「あ、照れてやがんの」
可愛い。
俺の言葉を真に受けた嵐くんは、体育座りをしながら、その両足に顔を埋めた。
びゅうびゅうと吹く11月の風のなか、真っ赤になった嵐くんの耳から、まるで湯気がでているみたいだった。
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