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なんか。
俺っていなくてもいいんじゃない?
涼くんと須藤くんてば、ホスト向けな顔してるから、貧相な俺なんかいらなくないかな?
もしや、引き立て役?
「涼くん、俺、帰る」
「…どうした?お前らしくねぇじゃん?」
トイレを口実に、涼くんを連れ出した。
「お前がノラナイとか、さ。なんかあった?」
「俺じゃ役不足じゃない?」
あー、ヤバイ。
思ってること口に出そう。
「まさか。あー…理解してないとは思うけど、お前って顔いいんだぜ?気付いてんの?」
は?
知らない。
地味顔じゃん、俺?
「あー、もう!辛気臭いなっ!つーか今日は帰らせない!ずっといなさい!」
「…はい」
涼くんの迫力に気圧されました。
俺の負け。
弱っ。
「カヨね、カヨねっ、リョォ君のアド知りたーい」
「あ、マリカも知りたいし。抜け駆けとかマジうざい」
「やだっ、俺ったらモテモテ?」
かれこれ三時間。
フリータイムをフルに使いながら、女達は涼くんに迫る。
涼くんは涼くんでまんざらでもなさそう。
須藤くんとサチエちゃんはいい雰囲気。
「瞳をーとじーれば…」
はい、俺。
むなしく独りカラオケ中…だったのですが、あれは、あれは間違いなく。
「…嵐くん」
何かが落ちる音。
あ、俺ったらマイク落としてら。
部屋のみんなが俺を見た。
けど、逃げ道が、存在しているのに、捕まえなくては。
「嵐くん!」
ドアのステンドグラスを通りすぎようとした人影を、ドアを開けて食い止める。
見知った顔。
ロンリーな俺は安心する。
「嵐くん、学校休んだくせに…」
サボりじゃん、て、続かなかった。
驚愕に目を見開いた嵐くんの腰を、馴れ馴れしく抱き寄せた男が邪魔をしたのだ。
「なに、アラシ?こいつお前の何?」
俺もビックリよ、嵐くん。
お前こそ何よ、プンプン。
「く、クラスメイト。じゃあな…。いこっ、ヤマサキさん」
あ、れ?
嵐くん?
クラスメイトは間違ってないけど、さ。
それはないんでない?
俺、君にまで置いてかれたら、どしたらいいわけ?
ねぇ、鋭い眼光で睨み付けてくる、やたらと男前なソイツこそ、嵐くんの何?
せ、ふれ?
なんか、なんか、なんか、嫌だ。
俺の知らない嵐くんなんて、知らない。
涼くんの視線を背中いっぱいに受け止めながら、俺は呆然と立ち尽くした。
嵐くん、君を慈しんで、溢れるくらいに注いだ友愛は、知らない奴といるときは無効なの?
行き場のない愛情、どうすりゃいいわけ?
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