君と俺。

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「涼くん、俺帰るわ」 「は?なぜー?ぶがっ」 涼くんの口に玉子焼きを詰めて黙らせる。 今から嵐くん家へ行こう。 こんなつまらない日常なんて、なかったのに。 ピンポーン 昼間にしては静かな空間に、無機質なチャイムの音が響く。 嵐くん家はラーメン屋が軒を連ねる、美味しい商店街のはずれにある小さなアパート。 嵐くんも一人暮らしなのだ。 「はい、どちらさま?」 ヒョコっと顔を覗かせたのは嵐くんではなくて、カラオケで一緒にいた男。 誰だっけ? 「…君は?」 一瞬驚いた表情をするも、すぐに平静さを取り戻した顔は、やはり男前で。 でも俺より身長は低くて。 いらない優越感が生まれた。 身長、勝った。 「ども。嵐くんのクラスメイトです。嵐くんは?」 「アラシ、今寝てるよ?あ、じゃあ上がるかい?」 どうしよ。 でも、このヒトとも話をしてみたいな。 聞きたいことがあるんだ。 「はい。お邪魔させていただきます」 リビングに着くと、紅茶を出してくれた。 いつも散らかっているはずの部屋は小綺麗に片付いていた。 彼はヤマサキ・ミチヒコというらしい。 「紅茶、どうも」 俺は簡単な自己紹介をすると、カバンの中から弁当箱を二つ出した。 首をかしげるヤマサキさんに片方を渡す。 「嵐くんに作ってきたんだけど、ヤマサキさん、食べちゃって下さい」 「いいの?」 「ええ。味の保障はしませんが」 「そっか」 クスクスと笑うヤマサキさんは、結構綺麗。 さて、本題。 「ヤマサキさん、嵐くんのなんなんですか?」 「…え、俺?彼氏?」 「そこで疑問符つけちゃダメですよ。彼氏、なんですね?」 「うん。あー、でもアラシにとってはセフレなんじゃないのかな。アラシ、今日の朝、殴られた痣あったのに…」 ちょっと。 それ、ヤマサキさん。 「心当たりは?」 「心当たりも何も、よくこの部屋に乗り込んでくるって、アラシから用心棒頼まれてるくらいだし。それ以上は、アラシから直接聞こうね?俺がどうこう言っていい問題じゃないから」 ね? と困ったように笑うヤマサキさんは、悔しいくらいに嵐くんを愛しているのだ、と実感させられた。 この人が、嵐くんを幸せにしてくれるのなら、俺は心配しないよ。 早く起きておいで、嵐くん。 .
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