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『パスタ』
夢のない、意味のない駆け引きは無駄だなんて、あなた、そんなこと思ってないでしょう?
何故手籠めにしたがるの?
女郎じゃないの、ただの愛人
「何言ってんの?ってか、なんでココにいんの?」
「あー、嵐くんおはよォ」
「おう、おはよ。って違うから。ヤマサキさん、どォゆうこと?」
グレーのスウェット姿で起床してきた嵐くんは俺の姿を見ると、不機嫌に顔を歪めた。
話を振られたヤマサキさんはにこやかに微笑んで、ご飯貰ったよ、と言って嵐くんの頭を撫でた。
初対面の時とずいぶん違った雰囲気だな、と思う。
「ヤマサキさん、餌付けされたの?ダメじゃぁん!てかお前!」
「ほーい?」
「…引かない?」
「何に?ヤマサキさんに?」
「そりゃないぜ、君。アラシも失礼なっ」
「違うったら。…だから、彼氏家に連れ込んでる、とか!」
頭をがしがし掻きながら嵐くんは言う。
何を今更って感じだよね。
「引いてちゃ、嵐くんのトモダチやってないよー」
でしょー?とか笑ってやる。
嵐くんたら、照れてるし。
可愛い。
「それにさ、ヤマサキさん好い人っぽいし、いいんじゃない?」
「やだなぁ。俺、ベッドの上では凄いんだから。もう、悪い人全開って感じ?」
「…ヤマサキさん、あんま嵐くんに負担かけないでね」
釘を刺すように言うと、ヤマサキさんはおとなしくなった。
嵐くんと同じタイプだ、この人。
「嵐くんも、学校休まないでよ。俺が涼くんに絡まれて大変なんだからさぁ」
「ん。ごめん」
学校に来づらかったのは、知っている。
長年の付き合いで、嵐くんをゲイだと知っていた俺を、「ただのクラスメイト」と紹介してしまった罪悪感。
いつか、彼氏を普通に紹介してもらえるように、極力努力する。
「よろしい。嵐くん、何か食べる?俺、弁当だけじゃ足りないし、いきなり押し掛けてきちゃったお詫びするよ」
「え!マジ?今パスタ食べたいかもしれねぇ」
「はいはい。ヤマサキさんも如何?」
「馳走になります」
「あい」
麗らかではない空気ですが、俺は嵐くんの部屋のキッチンに立った。
食品棚や冷蔵庫に、見事に材料がそろってるのがなんだか可笑しい。
少し、微笑ましいと感じた、そんな日。
結局あなたは去ったじゃない
不必要だったのね?
もう、男なんて信じないわ
なんつって。
これは俺のバンドの歌詞だけど、嵐くんてこんな風にやわじゃないなって思う。
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