156人が本棚に入れています
本棚に追加
「そんな!だってこれじゃ!」
昼時のいい時間
そのカフェの中は人で埋まっていた
人目もはばからずに大声を上げ、立ち上がる男に誰もが目を向ける
男は周囲の視線に気付いたが、後には引けまいと頑なに姿勢を保つ
「まぁまぁ落ち着いて」
向かいの男は何事も無いかのように煙草に火を点ける
「…取り敢えず座ってくださいよ」
座るきっかけを得た男は素直に腰を下ろす
「僕は小島さんの言うように進めてきたんですよ?それなのに不評だとか…」
「ちょっとちょっと…それじゃ私が全部ストーリーを考えたみたいじゃないですか。私はあくまでも担当としてアドバイスをね…っと」
小島は慌てて、落ちそうになった灰を灰皿へと落とした
「仕方ないじゃないのよ。俺も上からの命令に従うしかないの。それが社会なの。君も分かってるでしょ?この嫌なシステムってのはさ」
男はただ黙って落とされた灰を眺めていた
「最後ぐらい君の好きにやるといいよ。打ち切りまでは誰にも文句言わせないからさ。漫画家としての腕の見せ所だよ」
男が見ていた灰の上に、小島は煙草を押しつける
「さてと…伝えることは伝えたし、もういいかな?」
「…はい」
小島はニヤッと笑い、男の片に手を置く
「期待してるからさっ」
それだけ言って店を出ていってしまった
テーブルの上には灰皿とくしゃくしゃになった煙草、空のがカップ二つ
そして透明な筒の中の紙きれ一枚
数分後、男はそれを手に取り、レジへと向かった
最初のコメントを投稿しよう!