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おおよそ2、3年越しになるだろうか。久々に触れた身体に、訳もなく俺の心臓は高ぶった。
――明るく『おかえり』と迎えてでもやるべきなのか、はたまたしんみり『久し振りだな』なんてお互い照れ笑いながらも固く握手を交わすのか。
長過ぎる付き合いゆえにそこのところがいまいち分からなかった俺の口からは、おぉともあぁとも取れぬ曖昧かつ不思議な呼応が飛び出した。
「……神山、」
ただいま、と後からの重々しい、ごめん。
――低いけれどどこか甘く響く艶めいた声だって。控え目に煌めく黒真珠の瞳を伏しがちに、だけど時折こちらの方を伺いながら謝るクセだって。眩しい光を受けて輪を作る指通りの良いさらさらした黒髪だって――。
全部全部、俺の知っている、俺の記憶にいつも映っている『本間俊雄』のままだ。…ちくしょう、どう罵り責め立ててやるものか、脳みそをフル回転させてまで必死に考えていたというのに。
もう、笑って赦してやるほかに無くなってしまったじゃないか。
同じ男のものにしてはちょっと頼りないすべすべの手のひらと乾燥で荒れがちの俺のそれが重なり合う、妙にその感触が懐かしい。長らく触れていないその間を経ても、彼はやはり容姿性格共に最後に見た、俺のぼやけた視界にも、哀しみや後悔がトゲを持って絡み付いた心にもそれだけが唯一はっきりと焼き付いていた、あの彼のままだった。
再会の感激に耐えきれず泪を零しながらしきりに会いたかったと繰り返す本間の頭を、あの日彼が俺の前でやっていた様に優しく撫でてやる。
「……すーき、」
「………………」
――寒さに紅くなった頬をより朱に染めて浮かべた微笑み。心なしかミサキに似ている(様に見えた)それは目を見張るほど美しく、そしてシナイの水面に踊る霧のごとく幻想的で儚かった。
腰に回していた左手をスラックスの中に侵入させ、ぷりんとした小さな尻をラインに沿ってさわさわとなぞる。
「――……っか、…かみ、…やま…?」
いきなりのことに状況を把握出来ずうろたえる本間。
右に左にと泳ぐ目線を遂に捕らえて、囁いた。
「シよっか、」
--To be continued...--
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