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その回数と勢いが減ってゆく客の乗り降り。駅を数えるごとにそれを目で追いながらも、珍しく涙腺は大崩壊寸前で。
ちょっと距離を置いたところに座っている彼は黙って、俯いたまま。何を言う訳でもする訳でもなく、静かにふかふかした椅子に収まっていた。
――目的地のひとつ前で、遂に俺たちはふたりきりになった。
自分と彼以外誰も居ないがらんどうの車両は、何故かひどく疲れている様にも見えた。ぎしぎしと重たい身体に鞭打ちながらただひたすらに、無理矢理に動くその様が、まるで今の俺たちみたいだと笑えてくる。泣きたい気持ちに変わりはないのだが。
時折窓越しの視界を横切る古びた温泉街のネオンも、踏切で俺たちが横切るのを待っている仲睦まじげな親子も、ひとつ前の駅にいた独りぼっちの黒髪の女の子も。どれもみんな悲しげで切なかった。
そしてもうじきあの暗い暗い人間の中に俺も溶け込んでしまうのだろうと、自嘲的にさえなった。
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