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例えその時が来てしまってもどんなかおをしたらいいのかが未だに解らない、これが自分なんだ。買ったところでちょこれーとなんて乙女じみたもの、結局渡せるはずもないだろう。
しばらくぷらぷらとあてもなくさまよっているそのうちに、目に痛いぐらいの自己主張をするピンクがいよいよ鬱陶しくさえ思えてきたから。
もやもやを奥底に押し込んで、踵を返した。
――踏み出したつま先は、自宅の方角とは反対を向いている。
相応しいものを何も持ち合わせてないんだしせめて顔を見せてやるぐらいは、と向かうことにしたあいつの家までの道中。派手なラッピングが眩しいそれの代わりになる様な言葉を考えてみても、今更浮かばなかった。
照れとか意地とか、過ごす年数を経るごとに増えていく邪魔のおかげでろくなメッセージも伝えられそうにない自分自身に半ば苛立つけれど。…内心そこの部分も含めてまあるく包み込んでくれているあいつにちょっぴり感服、してみたり。
薄手のカーテンからわずかに漏れる暖色に、あいつの在宅を確認した。
一人きりだからこそ大変な彼は、落ち着く場所に帰っても色々とするべき仕事やらがあるんだろう。日々に忙殺されそうなあいつにとって俺の存在が少しの間でも癒しになるならば、それでいい。
不器用で弱虫で、そんでもって強情な俺に出来る精一杯の、バレンタイン。
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