あくまで天使です。

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――この世のどんなモノよりも真っ白で、この世のどんなモノよりもふわふわしていて、この世のどんな鳥よりも高く、遠くへと翔べる、そんな翼。 普段は猫背だのと言われているが。しなやかな背骨のラインが芸術的なこの子の背中を眺めていると、そこには確かに翼があると錯覚してしまうのに。だのにどうしたってそれを具現化することは出来なかった。自分だけじゃない、他の誰にも。 この子は勿論人間なんだから、そもそもこの背中に翼が生えているという想像自体間違っている。だけど俺には見える、はっきり見えるんだ。 ――この世のどんなモノよりも真っ白で、この世のどんなモノよりもふわふわしていて、この世のどんな鳥よりも高く、遠くへと翔べる、そんな翼。 ……それが、見えるんだ。 「…んぅ……、?」 あからさまに寝惚けているだろう声がして、目の前の両肩がもぞもぞと揺れる。動く。 ――は、と息を呑んだ。 うっすら空いた瞼から覗く潤んだ瞳も、まだ少し紅が残る目尻や頬も、やっぱり彼は美しい。…けれど自分の反対側に落ち着いて死角が多くなった背中のちょうど肩甲骨らへん――うなじから背筋へと伸びる曲線から指1本分ほど外れたところ――に。…あぁ、色濃く描けるじゃないか。 ――この世のどんなモノよりも真っ白で、光を受けるときらきら七色に輝いて、この世のどんなモノよりもふわふわしていて、思わず手をやると包み込まれる様に温かくて、この世のどんな鳥よりも高く、遠くへ翔べて、翔んで辿り着いた先、遥か空の上から笑ってみんなを見守る。 そんな、彼の、この子の『翼』を。 「……なんやねん…、?」 黙って指先を空に滑らせている俺に、不満げな顔を見せる。 「――きみの、ツバサやで、」 「…つばさぁ?」 意味が分からなかったのかしばらく黙り込んだのち彼は、 「…………あ、そっかぁ、」 頷いた。 「あるで、ツバサ」 ――やっておれ、ななにんぜんいんのてんし、やもん。 美しくも儚い天使とは名ばかりの、いつもみたく丸い目を細めて。いたずらっ子で小悪魔で、そんでもって最高にいやらしい顔で、小さく笑った。 ――…いやいや絶対ちゃうやろ、と。
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