はじめの一歩

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 それから二週間が経ち、日曜がやってきた。四人は、あの居酒屋に六時に集まることになっていた。先にやってきたのは優介と健吾だ。だが、それから五分しても十分しても、実咲は現れない。時計は六時十分を指そうとしていた。 「もう今日は来ないんじゃないの?」優介がそう言った時、 「すみません、遅くなりました。」そう言う女性の声が聞こえた。優介はこの声に聞き覚えがあった。だが、優介より先に声を上げたのは健吾だった。 「城所、城所だよな。」 「あ、山口君じゃん、久しぶり。」美愛はこう言ったが、隣にいる男性の姿を見ると、急に口ごもった。「あれ…隣にいるのは…高沢…君?」 「おぉ、久しぶり…」二人の間に、妙な空気が流れた。だが、お互いの頬はかすかに赤くなっていた。 「美愛、知り合い?」実咲が空気を察してか、口を挟んだ。 「うん、みんな高校の同級生なの。あ、ほら、本題、話そ、ね。」  そう言って美愛は上手く話を反らした。  それから美愛は、優介が口を挟む間もなく、実咲と健吾の言い分をまとめていく。一時間も経たぬ間に二人の関係を取り繕ってしまった。美愛は本当にこういう場を仕切るのが上手い。優介はそう思った。そして、きっと自分の恋愛もこれくらい上手くやっているのだろうと、少し寂しい気分にもなった。  健吾と実咲の話が済んでしまえば、四人で話すことは特になかった。 「じゃあ、そろそろお開きにしますか。ホント、優介と城所には悪いことしたな。」 「高沢さん、美愛、ホントごめんね。」  健吾と実咲は口々にこう謝った。 「そんなことないよ、な?」優介は美愛の顔を見たが、思いのほか美愛の顔が近くに有ったため、すぐに目をそらした。 「う、うん。そうだよ。二人とも、お幸せにね。」こうは言ってみたものの、美愛も内心は優介の顔の近さにドキドキしていた。
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