はじめの一歩

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一方、その日の夜、優介と健吾はいつもの居酒屋に立ち寄った。 「昨日はありがとな。お前のおかげで、何とか上手くいきそうだ。」 「そんなことねぇよ。じゃあ今日は、お前らの仲直りに乾杯だな。」そう優介が言うと、二人は乾杯をした。 「そういえばさ」健吾が切り出した。「あの後、お前と城所、どうしたんだ?」 「どうしたって…あいつが普通に帰ったから、俺もその後帰ったけど…なんで?」 「なんでって…お前、そのまま帰しちゃったのかよ。久しぶりに会ったんだからさ、もう一軒ぐらいよって帰ったってよかったじゃねぇかよ。何で誘えないかなぁ。」 「なんでと言われてもな…」 「好きなんだろ?城所のこと。」間髪入れずに健吾が聞き返す。 「まぁ…」 「じゃあいいじゃねぇか、今度誘って飲みにでも行けよ。」 「うん…でもさ、昨日だって『じゃあ帰るね』って言って帰っちゃったんだぜ?それって…脈アリとは考えられなくないか?友達としては、これから先も上手くやっていけるかもしれないけどさ、『好き』っていう感情が入っちゃったら、なんか話が変わってきちゃうような気がするんだよなぁ。」そう言うと、優介はビールに手を伸ばした。 「まぁ、お前がいうことも一理あるわな。でもさ、そろそろ一歩踏み出してみろよ。最初は今より、もっと仲のいい友達でいいじゃんか。最初は飲み友達でもさ。それが相談相手になって、頻繁に会うようになって、気付かないうちに『お互い大切な存在になってた』なんてことになればいいわけじゃん?」こう言って、健吾はつまみの枝豆に手を伸ばした。 「まぁ…そういうとこだな。」 「よし、決まった。今晩メールしろ。」 「は?何をそんな急に…」 「急?全然急じゃないだろ、もう十年近く温めてたんだろ?それに、思い立ったが吉日って言うしな。よし、今日はお前の新たな一歩にも乾杯だ。ほれ。」 健吾は優介の方にコップを差し出した。渋々優介もコップを差し出した。コップ同士が当たった軽い音に反して、優介の心の中は重苦しい不安でいっぱいだった。
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