はじめの一歩

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翌日、二人はいつもの居酒屋で待ち合わせをした。先に着いたのは優介だったが、程なくして美愛がやってきた。 「ごめん、待った?」 「大丈夫、今来たとこ。まぁ座りなよ。」 「うん、ありがと。なんか久しぶりだね、こうやって二人で会うのも。」 「そうだな、大学以来か?」 「そうだねぇ、同じ大学だったからいつでも会えたもんね。でも結局就職先教えてくれなかったんだもん、まさか宮川に戻ってきてたとは思わなかった。」 「悪い悪い。あの頃はさ、みんな向こうに残るのが当たり前、みたいな感じだったからさ、『俺は地元行きます』なんて言えなかったんだよ。」 「高沢くん、昔からプライドは人一倍高かったもんね。」そう言って美愛は笑った。 「うっせーな。」口ではこう言ってみた優介だったが、内心は久しぶりに美愛の笑顔を直接見れたことが、嬉しくて嬉しくてたまらなかった。ずっと美愛の笑顔を見ていたいと心の底から思った。自分が素でいられるのは美愛の前だけだと確信していた。一方の美愛も、久しぶりに会った優介の笑顔が以前と変わらないことに安心していた。そして、優介同様二人の間の空間の居心地のよさを感じていた。  それから二人はいろいろな話をした。高校・大学の思い出話、大学を出た後のお互いのこと…話は尽きなかった。だが、お互い恋愛のことには触れようとはしなかった。優介も美愛も、自分だけが独りであるという現実を突きつけられるようなケースを避けようとしたのである。
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