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あっという間に時間は過ぎていった。
「じゃあ、そろそろ帰ろうか。」という優介の一言で二人は店を出た。家が同じ方向だと知った二人は、並んで歩き出した。
「こうやって、二人で飲んで、二人で帰るの、何年ぶりだろうな。」優介が言った。
「そんなこと、覚えてるわけないじゃん。」美愛はそう言って笑った。
それから十分ほど歩いたところで、「じゃあ…ここで。」と美愛が言った。本当は別れるのが惜しかった。もっともっと、このまま話していたいと思った。
「家まで送ろうか。」優介にこう言われた時、美愛は本当に嬉しかった。だが、そんな心とは相反して、
「大丈夫、すぐそこだし。」と言ってしまった。
「そっか。じゃあな。」
「うん。」
美愛がこう言うと、二人は逆方向に歩き出した。
この時、優介は、ここでさらに一歩を踏み出す勇気がない自分に気付くと、そんな自分に少し苛立っていた。だが、少し冷静になると、優介の頭の中に健吾の言葉が浮かんできた。
『最初は飲み友達でもさ。それが相談相手になって、頻繁に会うようになって…』
何かしなくちゃいけない。久しぶりに優介はそう思った。足を止めると、後ろを振り返った。まだそこには美愛の姿があった。まだ間に合う。
「城所。」優介は大声で叫んだ。驚いて振り返る美愛。「またこうやって一緒に飲もうぜ。」優介は叫び続けた。これが、一歩を踏み出せない優介なりの答えだった。それを聞いた美愛は、両手で大きな丸を作ってみせた。それを見て安心した優介は笑った。
「ありがとう。じゃあまたな。」こう叫ぶと、大きく手を振った。それに呼応するように大きく手を振る美愛。そしてまた二人はそれぞれの道を歩き出した。
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