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四月。桜並木通りと、イチョウ並木通りの交わる交差点の、歩道橋の上。1人の男性が立っている。スーツにネクタイ姿。桜の花びらが舞い、イチョウの緑の葉が揺れ、木漏れ日もそれにつられて揺れる。花びらと光の共演。幻想的な世界。そこに男性が加わる。高沢優介。宮川市の都市開発課に勤めている、市役所員。そこにもう1人の男性が合流する。同じ都市開発課の山口健吾。
「ほい、優介。」健吾は優介に缶コーヒーを投げた。
「サンキュー。」二人は揃ってコーヒーを飲み始める。二人は道路を眺めたまま、しばらく黙っていた。ふと、健吾が口を開いた。
「しかし参ったもんだよな。給料五パーセント減だとさ。ここまで宮川を発展させたっていうのにさ。全く、世の中不況で困ったもんだ。優介、お前なんかあてあるのか?」
「あてなんかあるわけないだろ。ぼちぼち倹約しながら虚しく暮らしていきますよ。ってか、お前こそどうやっていくんだよ。まぁ彼女と一緒に住んでるんだろうから、生活費は半分になるだろうけどさ。いいわな、モテるやつは、うらやましいよ。うまくいってるんだろ?」
「まぁ…普通にね。そっちこそどうなんだよ。ほら、高校の同級生の…」
「城所のことか?だからアイツとは何もないってずっと言ってるじゃんか。高校からのいい友達、ってとこだよ。あ、もうこんな時間。この話はまた今度な。ほら、そろそろ役所戻ろうか。」健吾は笑いながら聞いているが、優介は相当な真顔だ。
「はいはい、じゃあ戻りますか。」
こうして二人は、市役所へと通じる桜並木通りを歩いていった。
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