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いつの間にか、いつもの分かれ道にさしかかっていた。
「なんて、そんなことないよね。」美愛は笑った。「じゃ、高沢くんも頑張ってね。」
そして、家の方向へ歩き出す。
「城所待てよ。」優介はこう言って、思わず美愛の手を掴んでいた。一瞬美愛は優介の顔を見たが、見続けることができず、再び反らしてしまった。
「なんて言うか…よく分かんないけど…お前ずるいよ…」
「どうして?」顔を背けたまま美愛が言う。「友達だもん…これじゃダメ?」
「バカ、いくら友達だって、急すぎるわ。それに…」優介は言葉に詰まった。
「それに、何?」
「え?それに、城所いなかったら、オレ寂しいじゃんか。」
「いいんだよ、私の言うことに合わせなくても。」美愛は笑った。
優介は夜空を見上げた。そして、心を決める。
一歩を踏み出さなければ、と。
「本気だよ。」優介は美愛の方を見て言った。思わず美愛も優介を見る。再び二人の目が合った。そして、今度は二人の目線が外れないうちに優介が続けた。
「オレは、高沢優介は、ずっと城所美愛が好きだった。ってか今も好きだよ。できることなら、近くにいてほしい。」
美愛は何も返事をすることができない。だが、目には涙が溜まっていた。その潤んだ目で優介を見続けた。
「でも、パリ行きは止めないよ。」優介はさらに続けた。「お前帰ってくるまで待ってるから…だから、帰ってきたら、結婚してほしい。」
美愛は黙ってうなずいた。
「やっと言えたぁ。」優介はこう言うと、思わずガッツポーズをしていた。美愛の目からは涙がこぼれていた。
「バカ、遅いんだよ。」美愛はこう言うと、やっと笑みがこぼれた。
「悪い。でも、美愛がこのままこっちにいたら、一生言うことがなかったかもな。離れるってわかったからこそ、言えたのかもしれない。」
「ふふ。」美愛は笑う。そして二人はそのまま…キスをした。一度、そしてまた一度…
それから、優介は美愛を抱きしめた。
「やっとはじめの一歩だな。」優介が言う。
「うん、はじめの一歩だね。」美愛が言う。
「浮気なんかすんなよ。」優介が言う。
「それはどっちのセリフだか。」美愛が言う。思わず二人は笑った。
「じゃあ、気をつけていって来いよ。」優介が言った。
「うん。」美愛が答える。そして二人は別々の方向の道を見つめる。
「じゃあ、行くよ。」美愛が言った。「せーの…」
「はじめの一歩!」
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