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同じ頃、旅行代理店の事務所の中、忙しそうに電話の応答をしている社員に混じって、一人パソコンのスクリーンを眺めている。城所美愛。優介とは中学から知り合いで、高校の同級生だ。
「美愛?美愛?もう、美愛ってば。」こう美愛に声を掛けたのは、同期の倉田実咲だ。
「うん?あ、実咲。ごめん、なに?」
「ねぇ、今、ぼーっとしてたでしょ?何考えてたのよ。」こう言うと、実咲は空いている理衣の隣のイスに座った。
「えっ?そんな、別に何も…」
「そんな、あの顔で『何も考えてませんでしたぁ』なんて、ウソが通じると思う?なに、なに?あ、誰だっけ、理衣がいつも言ってる人。そうそう、高沢くんのことでしょ。今日はどんな思い出話?」
「だから、全然そんなんじゃないから。」机の書類を整理するふりをして、美愛は逃げようとした。
「へえ、そうでしたか。じゃあ、また何か変わったことあったら、言ってくださいね。」そう言って席を立った実咲だったが、その顔は明らかに美愛を疑っていた。
「うんうん、分かってる、分かってるよ。」美愛はそう言うのが精一杯だった。実咲が言っていたことは大抵が図星だった。だからこそ、これ以上余計なことを言って墓穴を掘るのが嫌だったのである。
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