はじめの一歩

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 その夜、優介は家へ帰ると、押入れの中からある物を取り出した。 「あった、あった。ホント、懐かしいなぁ。」それは高校の卒業アルバムだった。冷蔵庫から缶ビールを取り出すと、それを片手にページをめくっていく。ふと、優介の手が止まった。そして、優介の目は一人の笑顔に釘付けになっていた。 「城所美愛、か…そういや最近会ってないな…メールでもしてみようかなぁ。」 早速メールを打ち始める優介。   『久しぶり!元気に頑張ってる?高校の卒アル見たら懐かしくなってさぁ。 今度、久しぶりに会えないかなぁ?』 こう打ち終えると、優介はベッドの上に寝転がり、ケータイを眺め、溜息をついた後、結局終話ボタンを押してしまう。 「なんでメールの一通も送れないかな…」 そのままケータイを閉じて天井を見上げると、優介は昔のことを思い出していた。 ―高校一年・春―  それはある日の帰り道だった。 「高沢くん!」後ろから優介を呼ぶ声。美愛だった。「よかったぁ、違かったらどうしようかと思った。久しぶり、元気?」 「おう、まぁまぁってとこかな。そっちは?」 「確かにまぁ…まぁかな。でも、ぎりぎりで合格したから、勉強ついていくだけで精一杯。」そう言って笑う美愛。 「そんなこと言ったって、部活入ったんだろ?それで勉強もしてんだもん、偉いじゃんか。」 「まぁね、そういえば高沢くんは部活入らないの?あ、私テニス部のマネージャーも兼任してるからおいでよ!」 「オレに運動求めちゃダメだって、前から言ってるじゃんか。ってか、絶対内心分かってて言ってるでしょ?」 こう言われると、何も答えず美愛は笑った。そしてそれにつられて優介も笑う。どうでもいい会話の中で、こんなことを繰り返しながら、駅まで二人で歩いて行った。駅に着くと優介が先に口を開いた。 「もう帰るんなら、このまま一緒に帰ろうよ。」 「ごめん、今日ちょっと寄るとこあるから先帰っちゃって。ホントごめんね。」 「そっか、それならしゃあないな。んじゃまたな。あ、アドレス…」 優介がこう言いかけた時、美愛のケータイが鳴った。 「ごめん、電話来ちゃった、またね。」美愛はこう言うと、人混みの中へ消えていった。 以前から『次、美愛にあったら、絶対アドレス聞き出そう』と思っていた優介だったが、こんなにも大きなチャンスが訪れたにもかかわらず、結局聞き出すことができなかった。
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