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その晩、優介と健吾は役所からそう遠くはない行きつけの居酒屋に入った。
「なんか悪かったな、忙しいのに。」健吾が先に口を開いた。
「そんなことないよ、久しぶりにお前と話したいと思ってたとこだしさ。で、相談ってなんだ?」
「うん、いや実咲のことなんだけどさ…」
「実咲ちゃんって…お前の同棲相手じゃん。」予想外の相談に、優介はつい声が大きくなってしまった。
「お前少し声デカイって。」
「悪い悪い。」こう言って優介は手を合わせると、改めて小声でこう尋ねた。「で、実咲ちゃんがどうしたんだよ。」
一息つくと、健吾が話し始めた。
「うん。話し始めると長くなっちゃうんだけど、簡潔に言うと…実咲、家出てっちゃったんだよね…」
「は?出てった?」驚いた優介の声は、また大きくなってしまう。それを目で諭す健吾。
「ごめん。で、出てったっていつだよ?」
「もう一週間になるかな…家帰ったら『色々考えたいから、当分実家に戻ります 迷惑かけてごめんなさい』って置手紙だけあってさ。ホント参ったよ…」
「そっか…でも、連絡はしたんだろ?」
「一応な。それでさ…本当の相談はここからなんだけど、再来週の日曜になれば、さすがに気持ちの整理もつくから、そしたら直接話をしようってことになったんだ。でも、二人だけで直接会うと、どうしても感情的になっちゃうだろ?それで、お互いの友達も交えての四人でなら…ってことになったんだけどさ、なかなか当てがなくて…」すると、健吾は頭を下げてこう言った。「本当に申し訳ない。一緒に行ってくれ。」
これを見た優介は、思わず鼻で笑ってしまった。そしてこう言った。
「バーカ、頭上げろよ。こういう時はお互い様だ。行ってやるよ。詳しい時間、決まったら教えろよ。」
「ホントありがとう。恩に着るよ。」健吾はまた頭を下げた。
「分かった、分かったから、もうよせよ。ほら、せっかく来たんだ、今日は飲もうぜ。」
優介はこう言って友人をなだめ、酒を飲み始めたものの、内心、美愛のことを相談出来ないような雰囲気になってしまったことを残念に思っているのであった。
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