はじめの一歩

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 それから二日後、同じ居酒屋を訪れたのは理衣と実咲だった。もちろん、話題は二日前に訪れた男たちと同じである。 「美愛、ホントお願いします。お願いだから付き合って?」 「分かったよ。ちゃんと行くよ。でもさ、どうして逃げ出してきちゃったの?直接話せばよかったんじゃない?別に嫌いになったわけでもないんだから、直接相談すればよかったじゃない。」 「うん…でも、なんとなく、言いにくいじゃない、このまま健吾と結婚するのが怖くなった、なんて…美愛は言える?」 「うーん…確かに難しいことだよね。」 「でしょ?最近、ホントに怖いんだ。このまま健吾のお嫁さんになったら、今のような関係じゃなくなるわけでしょ?もっともっとお互いを理解しなきゃいけない。そしたらね…怖くなった。それで、逃げたくなった。」 「分かるよ、その気持ち。まぁ私はまだ『結婚』とかいうレベルじゃないけどさ。次のステップに進むための一歩を踏み出す勇気って、簡単なことじゃないもんね…」 「それって、高沢くんのことでしょ?」 「え?違う違う、昔のことだよ。」そう言う理衣は、言葉とは裏腹に焦っていた。 「美愛、もう隠さなくていいじゃない。いい加減、私だって分かるよ。好きなんでしょ、高沢くんのこと。」  こう言われた理衣は、黙って頷くことしか出来なかった。 「伝えればいいじゃない、高校からずーっと好きだったんでしょ?迷うこと、ないと思うけどな。」 「うん…でもさ、もう十年近く友達だからさ…いつまでも友達のままじゃ嫌だって思うけど、もし断られたら、とか考えるとね、すんごく怖いんだ。場合によってはさ、今みたいに会えなくなるかもしれないじゃない?私さ、優介といる時間がね、すんごく好きなの。物事を深く考える必要もないし、思ったことも言いやすいし…なんだろ、初めて素のまま居られるなって思った。でも、そういう時間がなくなっちゃうのってさ、やっぱ寂しいんだよ。それに、大学出てからずっと会ってないから、今どこで何してるかなんて分かんないし…」美愛は笑った。 「美愛…」 「今はね、付き合うことへの期待より、振られることへの不安の方が大きいんだ…なんてこと言ってるうちに、年取っちゃうんだよね。」こう言って、美愛は注いだビールに手を伸ばすのだった。「ほら、実咲も飲も、ね?」 美愛がビール瓶を差し出すと、実咲は笑いながら頷き、コップを差し出すのだった。
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