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その晩、美愛は家に戻り、水を一口飲むと、思い出したように押入れの中を探し出した。取り出したのは、やはり高校の卒業アルバムだった。埃を払うように、それをポンポンと叩くと、美愛はベッドの上に座って、それを開いた。ページをめくる美愛。美愛は優介の姿を目で追いながら、「一歩、か…」と呟くと、カバンの中からケータイを取り出し、メールを打ち始めた。だが、
『元気~?今どこで仕事してるの?』
とだけ打って、それ以上打つのを止めた。そして、過去に想いを馳せた。
―高校三年・春―
それは卒業式の前日だった。普段は同じ電車になることなどほとんどないのに、この日に限って珍しく二人は同じ電車だった。あれも何かの巡り合わせだったのだろうと美愛は思っている。この日、起こった不思議なことは、これだけではなかった。
「隣、座ってもいい?」普段だったらなかなか言えなかったこの一言が、なぜかこの日の美愛には簡単に言えたのだった。
「おぉ。」優介はサラッと答えた。
こんなに何もかもが上手くいく今日なら、ことあと駅に着いた時にでも、優介に告白することも出来るのではないかと美愛は思っていた。
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