デジカメ

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あの日はヤケに母親が浮かれていた。家族の誕生日でも、記念日でもなんでもない日なのに。 学校から帰ってくるなり、母親が小走りに駆け寄ってきた。 「お帰り!ねぇ、ちょっとカズキ見てよ!」 母親はいつもよりニコニコしながらそう言ってきた。 「別に見たくねぇんだけど」 「そんな事言わないで見てよ」 母親はそう言うと、後ろ手に持っていたそれを見せた。 「デジカメ買ったのよ~?パパのこの前のボーナスは残り少なくなっちゃったけど、これがあれば思い出いっぱい残せるじゃん。これでまず最初に撮るのはカズキって決めてたんだから、笑って?はい、ポーズ!」 するとポーズをとる間も無く、カメラのフラッシュが光った。 「勝手に撮るんじゃねぇ。そんな無駄なの買ってんなら、俺に小遣いくれたらよくね?マジそう言うのうぜぇんだけど」 すると母親からあの笑顔が無くなっていつもの表情に戻っていた。 「…ごめんね。勝手に撮ったら怒るよね」 こんなのはいつもの事だから別に気にしてない。とりあえずゲームがしたいから部屋へと向かって行く。 すると階段を登りきった辺りで、下から母親がまたなんか喋ってきた。 「写真撮って欲しかったらいつでも言うのよー」 それを無視して部屋に入った。 写真撮ってほしいと思うなんて、この先、一生ないんだけど。
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