紫色の優しい彼。

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まだ目も覚めずに夢の中にいる家族に書き置きを残し、家を出る。 ふと手を翳(かざ)して仰ぎ見ると真っ白な鳥が青い空を浮遊していた。 くるくると円を書く鳥。 美しい羽一枚一枚を風になびかせて―… 空を飛ぶことは、どんなに気持ちいいんだろう? ふわりと微笑み、俺は学校へ向かう。 まだ人はほとんど来ていない静かな学校。 来ているといえば先生くらいだろう。 いつもはどんなに五月蝿い校舎も、今は落ち着いた雰囲気を漂わせる。 がらりと渇いた音を教室に響かせて、俺は教室に入る。 熱がこもる教室の一番奥へ進み、窓を開ける。 ふわ、り。 風が悪戯(いたずら)にカーテンと遊びはじめる。 舞うカーテン。 静かな校舎。 何よりもこの時間が大好きだ。 俺は微笑んで窓の縁に手をかけ、ふぅ、と息をつく。 新しい風を肺一杯の吸い込んで―… 刹那だった。 「会長殿!」 不意に聞き覚えのある声に呼ばれ、目を向ける。 そこには紫の髪を高く結い、それでもまだ長い髪をなびかせながら近づく人がいた。
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