紫色の優しい彼。

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だから話もどちらかというと合うし、五月蝿い奴らよりは気軽に話しやすい。 「いつも早いのだな、会長殿は」「会長って止めろよ…〝カイト〟でいいって。同い年なんだから」本当は。 その声で。 その口から。 俺の名前が出るのを、期待している。 こんなちっぽけなことで緊張する俺は駄目なんだろうか? すると、しばらく考え込んだがくぽは、にっこりと笑った。 「じゃぁ、〝カイト殿〟!」 「殿ってなんだよ…」 小さく項垂(うなだ)れると、少し恥ずかしそうにがくぽは笑った。 くしゃりとなった笑顔が、俺は何よりも好きだった。 (…好き、だ) なんて、声には出せない。 その笑顔を壊したくはないから。 その、幸せな時間。 流れはじめた刹那。 そう。 まさに一瞬の出来事。 がぁぁっしゃぁぁんっっ 教室の扉が、壊された。 (………………………………え?)いや、もはや砕け散った、といった方が正しいのかもしれない。ドアの硝子は破片となって辺りに散らばり、無残にも形を保ってはいないドアそのものは壊れた玩具(おもちゃ)のように床に平伏(ひれふ)せていた。
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