1話 なれなれしい男

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「――…で、 これが酸化を起こすことで――」 つらつらと並べられる化学式。 化学が好きじゃないあたしは ただただ眠りに誘われるだけ。 なんで実験でもないのに 教室移動させたの……。 意味わかんない。 「……はぁ…」 あたしは小さく息をはくと こっそりと文庫本を開く。 教科書を立てることで カムフラージュしながら 活字に目を通していった。 ―――――――……… キーンコーンカーンコーン…… 小説に夢中になってたおかげで あっという間に時間が過ぎた。 一気にざわつき始める教室。 あたしはいつものように1人、 教科書類をまとめて 自分の教室に帰ろうとした。 それがいつもの日常。 ――…だったんだけど。 「ねぇねぇ!!」 「――…え?」 あまりに素っ頓狂な声が出た。 だって…… 周りには、女子がいっぱい。 あたしを囲うように ぐるっと輪になってた。 な、なに……!? 思いがけない光景に あたしは足が止まる。 それに1人の女の子が 目を光らせたように あたしに一歩近づいた。 「あのね、 聞きたいことがあるんだけど…」 「…………。 ……なに?」 大分冷静になったあたし。 平然と聞き返すと―― クラスメイトはより一層 ずいっと顔を寄せてきた。 「3組の黒崎君と 付き合ってたって――… ほんと?」    
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