1話 なれなれしい男

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「は……?」 思わず、聞き返してしまう。 だって―― その言葉に 現実感がまったくなかったから。 あたしのバリアを壊す? そんなこと―― 「無理だよ。」 「んなこと やってみないとわかんねぇだろ」 「やってみなくてもわかる」 「わかんねぇ」 「わかるっ!」 「わかんねぇよ!」 「わか――」 そこであたしは言葉を止めた。 こんな言い合いしたって たぶん平行線で。 何よりこんな言い合いに 意味なんてないから。 「……好きにすれば」 あたしの口から出た言葉は 精一杯に突き放した言葉。 「俺あきらめわりぃから。 覚悟しとけ?」 それを彼は軽くながす。 その上に 自信たっぷりな笑みを浮かべて。 ――…バカなやつ… そう心の中でつぶやいて あたしは教室を出た。 あたしに言い寄ってきた男は 今までにもたくさんいる。 でもその度に 突き放されて傷つけられて。 それでも次こそは 違うかもしれないって。 あたしだけを 大事にしてくれるんじゃ ないかって。 そう信じ続けて―― 傷つき続けてきた過去。 だからあたしはもう間違わない。 もう誰にも 心を許したりしない。 付き合ったりしない。 「……絶対に。」    
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