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第1章 エクストラ
少女は無機質な殺意を向けるギャザリンを、親愛の情にも見える程の笑顔で見詰めていた。
その笑顔を前に、降り下ろしかけた漆黒の刃が止まる。
これまで、どれほどの命を摘み取ってきたのか。
抜き放たれた黒き殺意には、情けも、迷いも、一欠片の慈悲すら無かった。
…なのに、
「…何故だ」
ギャザリンは吐く息と共に呟く。
息苦しい。
気付けば動悸も激しく、剣を握る手が震える。
歯噛みする音が室内に響いた。
「殺しに、来た筈だ…」
そう、目の前の存在を、自分は殺しに来た筈だ。
なのに自分は初めて、刃を振るう事を躊躇っている。
ギャザリンは己れの中に、何か得体の知れない感情が芽生えるのを感じた。
だがそれは、不思議と不快ではなくて。
身体から力が抜け、気が付けば黒剣を下ろしていた。
「…お前は、いったい…」
敵意の失せたギャザリンが、少女に手を伸ばしかける。
その時背後に気配。
「隊長、こちらは片付きました。
目標は」
ギャザリンは再び身体に力が入るのを、感じていた。
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