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躊躇いなど有り得なかった。
自分の意思など、切り捨てた命と共に置いてきた。
なのに、この少女だけは殺せない。
殺してはいけないと、無くした筈の心が叫ぶ。
「…お前は、いったい…」
敵意の失せたギャザリンが、少女に手を伸ばしかける。
その時、背後に気配。
「隊長、こちらは片付きました。
目標は」
分からない。
自分は何故、こんな事をしている?
「隊…長…?」
気付けば、部下の胸を黒槍で貫いている自分がいた。
そうか…
自分は、守りたいのか。
これまでの全てを捨ててまで、何故、こんなにも救いたいと思うのだろう。
自分が分からない。
だが、既に行動は起こした。
「何なんだろうな?
これは…
お前を救えば、その答えが解るのか?」
少女に歩み寄り、左手を差し出す。
「俺が助けてやるよ。
来るか?」
ギャザリンの問いに、少女は満面の笑みを浮かべ、その手を握る。
その笑顔を前に、ギャザリンの表情が綻ぶ。
初めてだった。
心地好い程にその心は穏やかで、迷いが無い。
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