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『ちょっとやめなさい』
止めようとするアタシの声などふたりには聞こえてないのか掴みあったままだ。
『何があったの?』
傍にいた川浦早紀に聞くと、彼女はオロオロしながら答えた。
篠崎を挟んで飲んでいるうちに、どっちがビールを注ぐかで、ピッチャーの取り合いになり、今のこの状況になったと言う。
当の篠崎もこの光景をポカーンとして見ていた。
他の社員も何が起きたのかと目を丸くする。
『あんた達っ! いい加減にしなさいっ!』
二人を離そうと手を出すが、まるで猫の喧嘩のように互いしか目に入っていない。
『川浦さん、貴女佐藤さん押さえて』
『はいっ』
アタシは薫を引き離した。
肩で息をするふたりは服も髪も乱れた状態だった。
『馬鹿者っ! 何をやってんのあんた達は。
ここが何処で、今日ここで何をしてるのか判ってんの?
見なさい。あんた達のお陰でみんな興ざめよ』
『せ、先輩ぃ、だってぇ……』
『だってじゃない! 言い訳すんなっ!』
アタシの剣幕に薫も京子もビクッと身体を震わせた。
そして店内はシーンとしてしまった。
やっちまった……。
アタシは声のトーンを落として言った。
『言い訳する前に、あんた達言わなきゃならない事あるんじゃないのかしら?』
『す、すみませんでした』
『ごめんなさい……』
ふたりは小さくなって頭を下げた。
『ま、まぁ、気を取り直して、もう一度乾杯しますかぁー』
男性社員の一人がフォローを入れ、みんなもそれに乗った。
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