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店にはアタシ達団体と、店主とその奥さん、アルバイト店員が一人、そしてカウンターには先ほどの彼しかいなかった事がまだ救いだと思った。
『どうも申し訳ありません』
カウンターの中の主人に頭を下げると、笑っていてホッとした。
『こんなもんまだ可愛いもんさ。酔っ払いが暴れたりして物を壊す事もありゃ、喧嘩もある。
それよか、お姉ちゃん威勢がいいねぇ。惚れ惚れするなぁ』
『いえいえ、とんでもない』
ふと、カウンターに座る彼に目をやるとグラスに口を近付けながら笑っていた。
終わった……。
アタシのラブロマンスは今終わった。
こんな威勢の良すぎる男らしいアタシじゃ……
ダメでしょ。
アタシは座敷の隅の席へと場所を移すと喧嘩の当人達を傍に呼び寄せ、言った。
『あんた達ね、社会人なんだからさぁ、場を弁えた行動取ろうよ。
ふっ、目の前で見せられた篠崎が引いてるから』
『だってぇ、佐藤先輩が薫の邪魔するんだもん』
『違うわ、井上が挑発してくるから』
薫と京子は火花を散らしながら睨み合う。
『あんた達、いい加減にしなさいよ。もう少し大人になりなさい』
ふたりは納得はいってないようだが「はい」と返事をした。
そんなふたりを見ながら、アタシは儚く散ったロマンスをビールで一気に消し去った。
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