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『……で、先輩に会ってみたいって言うんですよぉ』
遅い時間にランチをする事にしたためか、他の客は疎らになった店内でアタシの向かいに座る薫は相変わらず語尾を伸ばして話していた。
食後のコーヒーを飲みながら薫の言った事を頭の中で整理する。
『それでぇ、いつがいいですかぁ?』
『何が?』
『山川太郎君に会う日ですよぉ』
『どうしても会わなきゃいけないかな?』
『だってぇ、先輩に会わせてあげるって薫言っちゃったんですもん』
目を潤ませ、ほら泣くぞの態勢に入った薫を見てアタシは言った。
『1回だけだからっ』
この時しっかりと断っておけば、今目の前に鳥のヒナは居なかったんだよね……。
思わず溜め息が洩れる。
『麻衣さん、どうしたんですか、溜め息ついちゃって。何か悩み事ですか? 僕が聞きますよ』
まるでファッション雑誌から出てきたような整った顔をした太郎が、アタシをじっと見つめて言う。
眺めている分には悪くない。
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