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朝靄に溶け…
光の刄が靄を切り裂きはじめ、視界が開けてきた中を一人、歩いている。
泥だらけのスニーカーに裾の破れたロングコートをかぶり、破れたジーンズの穴からは太ももが見え隠れしている。
伸びた髪は肩にかかり、前髪は目をふさいでいる。
左手には濡れたこけしを持ちゆっくりと、ふらつく足取りで歩いていく。
たまにブツブツとつぶやき、左手のこけしを顔前に掲げては右の道・左の道と進んでいった。
「ココ…みたいじゃな」
平屋の、古ぼけた家の前に立っていた。
元は白壁だったのだろうか…何年も人の手が入らず変色し、強く蹴り込むと容易に風穴を作れそうだ。
あとから付け足したのか、ガスと水道の管が壁の外からクビを突っ込んでいる。
「早く着きすぎたのぅ…しばし待つとするか」
よっこいしょっ、と門の前に腰を下ろし、青く染まりだした空を見上げる。
「空の色は、昔も今も変わらんのぅ」
顔を上げた時、前髪から幼い顔立ちが朝焼けに解放された。
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